価格を決める前にやること:WTPを「推測」から「確認」に変える
「この価格で本当に売れるのか」「高すぎて失注しないか」「安すぎて損していないか」。価格設定の不安を抱えるB2B SaaSチームは多いです。
この記事でわかること
- なぜ価格設定で失敗するのか: 推測ベースの価格決定の落とし穴
- WTP調査の4つの手法: Van Westendorp法・コンジョイント分析・A/Bテスト・インタビュー
- 実践ステップ: 調査設計から価格決定までの流れ
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| カテゴリ | GTM戦略 |
| 難易度 | 中級 |
| 想定読了時間 | 12分 |

なぜ価格設定で失敗するのか
推測ベースの価格決定
多くのB2B SaaSが陥るのは、以下の「推測」に基づく価格設定です。
| 推測パターン | 問題点 |
|---|---|
| コスト積み上げ | 顧客の価値認識と無関係 |
| 競合比較 | 自社の独自価値を反映しない |
| 勘・経験 | 再現性がない、検証できない |
WTPとは何か
WTP(Willingness to Pay:支払意欲) とは、顧客がその製品・サービスに対して支払ってもよいと考える最大金額です。
WTPの特徴:
- 顧客セグメントによって異なる
- 時間とともに変化する
- 単一の数字ではなく「範囲」で捉える
McKinseyの調査によると、価格設定を1%改善すると営業利益が11-15%向上するとされています。

WTP調査の4つの手法
1. Van Westendorp法(価格感度測定)
顧客に4つの質問をする手法です。
質問内容:
- この製品が「高すぎる」と感じる価格は?
- この製品が「高いが購入を検討する」価格は?
- この製品が「お買い得」と感じる価格は?
- この製品が「安すぎて品質が心配」な価格は?
メリット: 実施が簡単、価格の許容範囲がわかる デメリット: 機能の価値を個別に測定できない
2. コンジョイント分析
複数の機能・価格の組み合わせを提示し、顧客の選好を分析する手法です。
例: 以下のプランA/B/Cのうち、どれを選びますか?
- プランA: 基本機能のみ、月額5万円
- プランB: 基本+分析機能、月額8万円
- プランC: 全機能、月額12万円
メリット: 機能ごとの価値を定量化できる デメリット: 設計が複雑、サンプル数が必要
McKinseyの調査では、コンジョイント分析に基づく価格戦略で2-7%の収益向上が確認されています。
3. A/Bテスト(実購買行動)
実際の購買場面で異なる価格を提示し、行動を比較する手法です。
実施方法:
- LPに異なる価格を表示
- 価格差は15-25%を推奨(統計的有意差を検出するため)
メリット: 実際の行動データが得られる デメリット: 既存顧客への影響に注意が必要
4. 顧客インタビュー
直接対話でWTPを探る定性的な手法です。
聞くべき質問:
- 「現在、この課題にいくら投資していますか?」
- 「この課題が解決されたら、どれくらいの価値がありますか?」
- 「予算はどのように確保していますか?」
メリット: 価格以外の文脈(予算サイクル、稟議プロセス)も把握できる デメリット: 「言っていること」と「やること」にギャップがある
調査から価格決定までのフロー

Step 1: 仮説価格を設定する
まず、現時点での仮説価格を設定します。
仮説の立て方:
- 競合価格の調査
- 顧客が現在投資している金額
- 提供価値の定量化(コスト削減額、売上向上額)
Step 2: 調査を設計する
目的に応じて手法を選択します。
| 目的 | 推奨手法 |
|---|---|
| 価格帯の把握 | Van Westendorp |
| 機能の価値測定 | コンジョイント |
| 実購買行動の確認 | A/Bテスト |
| 深い理解 | インタビュー |
Step 3: データを収集する
サンプル数の目安:
- Van Westendorp: 100件以上
- コンジョイント: 200件以上
- A/Bテスト: 各パターン500件以上
Step 4: 分析・検証する
収集したデータから価格帯を特定します。
注意点:
- Bain & Companyの調査では、表明されたWTPと実際のWTPには10-15%の差がある
- この差を考慮してバッファを設定する
Step 5: 価格を決定する
最終的な価格を決定し、プライシングページやセールス資料を更新します。
価格構造の設計
価格だけでなく「価格構造」も重要です。
価格軸の選択
| 価格軸 | 例 | メリット |
|---|---|---|
| ユーザー数 | 1ユーザー1,000円 | わかりやすい |
| 利用量 | 1GB/100円 | 従量課金でフェア |
| 機能 | Basic/Pro/Enterprise | アップセル導線 |
| 成果 | 成約1件/1万円 | 顧客の成功と連動 |
複数軸の組み合わせ
OpenViewの調査によると、$100M以上の評価額を持つSaaS企業の86% が3つ以上の価格軸を持っています。
実践チェックリスト
- 現在の価格設定の根拠を言語化した
- WTP調査の手法を選択した
- 調査対象セグメントを決めた
- サンプル数の目標を設定した
- 調査結果を価格に反映した
よくある質問(FAQ)
Q1. WTP調査にどれくらいの予算が必要ですか?
Van Westendropやインタビューは社内で実施可能です。コンジョイント分析を外部に依頼する場合は50-200万円程度が目安です。
Q2. 調査対象は既存顧客と見込み客のどちらがいいですか?
両方を対象にすることを推奨します。既存顧客は「実際に払っている人」、見込み客は「これから獲得する人」として、それぞれの視点が必要です。
Q3. 価格を上げたら解約が増えませんか?
既存顧客には据え置き期間を設けるのが一般的です。新規顧客向けの価格を先に上げ、既存顧客は更新タイミングで段階的に移行します。
Q4. 競合より高い価格をつけても大丈夫ですか?
差別化が明確であれば問題ありません。むしろ、高い価格は「価値が高い」というシグナルになります。重要なのは価格を正当化できる価値を伝えることです。
Q5. 価格表を公開すべきですか?
ターゲットセグメントによります。SMB向けはセルフサーブが多いため公開が有効。エンタープライズ向けは「お問い合わせ」にすることで商談機会を確保できます。
まとめ
主要ポイント
- 推測から確認へ: 勘や競合比較ではなく、データでWTPを把握する
- 手法は目的で選ぶ: Van Westendorp・コンジョイント・A/Bテスト・インタビューを使い分ける
- 価格構造も設計する: 価格だけでなく、価格軸と組み合わせを検討する
次のステップ
- Van Westendorp調査のアンケートを設計する
- 既存顧客5件にWTPインタビューを実施する
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参考リソース
本記事はyap(ヤップ)のB2B SaaS GTMシリーズの一部です。
この記事を書いた人
yap編集室
株式会社yapの新規事業開発コンサルタントたちによる編集チームです。新規事業の仮説検証・PMF設計、営業推進に関する知見を、さまざまなプロジェクト支援の経験をもとに発信しています。


